後藤裁判 控訴審 判決文(その6・最終回)― 損害額の合計は2,200万円!果たして12年5ヶ月の代価として妥当なのか?!
後藤徹氏の勝訴判決となった控訴審判決の判決文の第6回目(最終回)を掲載する。
今回UPしたのは、以下の青字部分です。今回は、徹氏が拉致監禁で被った損害額の具体的算定です。12年5ヶ月間という長期間に亘る監禁に対する損害額の算定は、おそらく裁判所としても前例がないため、その算定方法において、苦心の跡が見られます。裁判所は、果たしてどのように算定したのでしょうか。
今回UPしたのは、以下の青字部分です。今回は、徹氏が拉致監禁で被った損害額の具体的算定です。12年5ヶ月間という長期間に亘る監禁に対する損害額の算定は、おそらく裁判所としても前例がないため、その算定方法において、苦心の跡が見られます。裁判所は、果たしてどのように算定したのでしょうか。
<目次>
主 文
事 実 及び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
2 被控訴人<兄>ら
3 被控訴人宮村
4 被控訴人松永及び被控訴人法人
第2 事案の概要
第3 当裁判所の判断
1 <賠償額の提示>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
2 <原判決の補正>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
3 <認定範囲の検討>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
4 被控訴人<兄>らの控訴人に対する不法行為の成否について
(1)平成7年9月11日のパレスマンション多門に向かった移動について
(2)平成7年9月11日から平成9年6月22日までのパレスマンション多門における滞在について
(3)平成9年6月22日の荻窪プレイスに向かった移動について
(4)平成9年6月22日から同年12月頃までの荻窪プレイスにおける滞在について
(5)平成9年12月頃の荻窪フラワーホームに向かった移動について
(6)平成9年12月頃から平成20年2月10日までの荻窪フラワーホームにおける滞在について
(7)<被控訴人<兄>らの控訴人に対する不法行為の成否についての結論的解説>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
(8)<消滅時効の抗弁について>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
5 被控訴人松永及び被控訴人宮村の控訴人に対する不法行為の成否について
6 被控訴人法人の控訴人に対する不法行為の成否について
7 損害額について
(1)被控訴人<兄>らの不法行為について
ア 逸失利益
イ 治療費
ウ 慰謝料
エ 弁護士費用
(2)被控訴人松永及び被控訴人宮村の不法行為について
8 結論
以下、判決文を掲載する。
(注意:判決文の本文中、重要と思われる部分を太字で表記した(最重要の箇所は下線を付けた)。また、解説部分は青字で表記した。また、後藤氏の兄は<兄>、妹は<妹>、兄嫁は<兄嫁>と表記する)
7 損害額について
(1)被控訴人<兄>らの不法行為について
ア 逸失利益【解説1】
まず,控訴人の逸失利益につき,前記認定事実によれば,控訴人は昭和62年に統一教会のホームに戻った後はその信徒組織において専ら伝道活動や教育活動に従事する生活を送っており,平成7年当時においても同様の生活を送っていたと認められるところ,この間,控訴人がどれだけの収入を得ていたかについて明らかにする証拠がなく,控訴人が賃金センサス相当の収入【解説2】を得られる蓋然性は立証されていないものといわざるを得ない(なお,本件では,控訴人の行動の自由が制約されていた間,控訴人が自ら生活費を支出していたとはうかがわれないので,この間の生活費の負担をどのように考えるのが相当か,問題がないわけではない。)。そして,被控訴人<兄>らの控訴人に対する行動の自由の違法な制約は,平成7年9月11日から平成20年2月10日までの長期間に及ぶものであり,この間の逸失利益の具体的な算定は困難であるから,控訴人に生じた損害の全体を慰謝料として算定するのが相当である【解説3】。
【解説1】:逸失利益とは、本来得られるべきであるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益を指す。本件裁判の場合は、後藤徹氏が監禁されなかった場合に12年5ヶ月間で徹氏が得られであろう収入のことを指す。
【解説2】:賃金センサスとは、わが国の賃金に関する統計として、最も規模の大きい「賃金構造基本統計調査」のこと。
【解説3】:後藤徹氏が被った損害の内訳として算定し、主張していた逸失利益は、大卒男子の平成20年賃金センサスを根拠として、監禁されていた12年5ヶ月間(31歳~44歳)および、その後の入院治療期間で、合計8627万9417円であった。この金額を単純に12年6ヶ月で割ると、約690万円となる。従って、徹氏は、1年間に得られたであろう年収約690万円×12年半分の逸失利益を主張していたことになる。それに対して、裁判所が下した結果は、「算定困難」「控訴人に生じた損害の全体を慰謝料として算定するのが相当」という極めて分かりにくい認定であった。そもそも、監禁されていなければ妻子を養うために相当の収入を得る生活を営んでいたことは当然なのだから、逸失利益がきちんと認められていないのは、理解に苦しむ。
<もし、自分が小学校入学から高校卒業までの期間、ずーっと一つの部屋に監禁されることを想像してみると・・・12年間の監禁の凄まじさが少しは理解できるかも。>
イ 治療費
次に,治療費相当の損害が33万9110円であることは,原判決63頁6行目冒頭(ただし,同行目の「前記のとおり,」を「前記認定事実によれば,」と改める。)から同頁13行目末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。
【解説】:治療費は、徹氏が一心病院に入院したことによってかかった費用であるが、これは、徹氏側が提示した33万9110円がそのまま認定された。
ウ 慰謝料
控訴人は,約12年5か月間にわたり全く外出することができず,外部との連絡を取ることもできないなど,個人としての普通の社会生活や市民生活を営む機会を長期間にわたって奪われ,この間,統一教会に対する信仰を止めるように求められ,精神的な苦痛を受けていたであろうと推認することができるほか,平成20年2月10日に荻窪フラワーホームをいわば着の身,着のままで,所持金も持たずに退出し,全身筋力低下等により,平成20年3月31日まで入院治療を受けることを余儀なくされたものであることが認められる。
もとより,これらの行為は,被控訴人<兄>らにおいて,もともと家族としての情愛に基づいて始められたものであることは否定できないとしても,これまでも述べたとおり,普通の判断能力を有いかに親や兄弟といえども,その意思を無視して,長期間にわたって拘束を続けることは,社会的に相当な限度を超え,違法なものといわざるを得ない。する成人男性である控訴人について,しかも,本件では,それ以前にも控訴人に対する統一教会からの脱会を求めて説得が行われており,控訴人において,そのような説得に応じないことを明らかにしていたにもかかわらず,再び行われたものであって,その説得を始める時点において,控訴人が容易には脱会の説得に応じないことが予想されたからこそ,わざわざ東京都内から新潟市内に場所を移すなどしてなされたものであり,新潟に向かう当初から,控訴人の意思に反するものであったことは明らかであり,違法なものというべきである。
もっとも,本件で認定したー連の事実において,例えば被控訴人<兄>らが控訴人の手足を緊縛したり,鎖でつないだりするなど,控訴人に対して直接,物理的な拘束を加えたことを認めるに足りる証拠はないものの,身の回り品の一切を取り上げて,事実上,控訴人が自由に外出したりすることを著しく困難なものとし,長期間の制約を継続して,結果的に控訴人の抵抗の意思すら奪うような状態に置いたものであって,実質的に控訴人が行動の自由を奪われていた期間は,入院期間を含めて平成7年9月11日から平成20年3月31日までの約151か月間であるから,仮に,この期間,控訴人が交通事故等によって入院を余儀なくされていたとすると,その間の入院慰謝料の額は約1156万円程度になる。
【解説】:ここで、判決文は仮の話として徹氏が交通事故等によって151ヶ月間入院を余儀なくされたと想定して、入院慰謝料を1156万円程度と算定している。「12年間の監禁」という前例のない損害額を算定するのに、比較対象する案件として事故による入院事例を示したのだろう。
他方,いわゆる刑事被告人等として自由を奪われていた者に対する被害補償の制度である刑事補償法による補償額等を考えてみると,「拘束の種類及びその期間の長短,本人が受けた財産上の損失,得るはずであった利益の喪失,精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察,検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情」を考慮して(同法4条),1日1000円以上1万2500円以下の割合による額の補償金を支払うものとされているところ【解説4】,平成7年9月11日から平成20年2月10日までの4536日にこれを機械的に当てはめると,その額は,453万6000円以上、5670万円以下となる。
【解説4】:刑事補償法とは、無罪判決を受けた者への補償をする旨とその額等を定める法律で、簡単に言うと冤罪により刑務所等に拘束された場合の補償に関する法律のこと。
刑事補償法は、こちら
→ http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO001.html
刑事補償法4条は以下の通り(判決文が引用している下線部分は、世話人)
「第四条 抑留又は拘禁による補償においては、前条及び次条第二項に規定する場合を除いては、その日数に応じて、一日千円以上一万二千五百円以下の割合による額の補償金を交付する。懲役、禁錮若しくは拘留の執行又は拘置による補償においても、同様である。
2 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。」
もっとも,同法が適用になる場合は,抑留及び拘禁等が基本的には適法な行為である反面,直接の物理的な拘束力が加えられ,家族の情愛等を前提とするものではないことなどの本質的な違いがあることから,仮に上記1日当たり4000円として計算すると,その額は1814万4000円となる。
【解説】:民事の監禁被害を刑事の冤罪による禁固になぞらえて損害額を算定しているわけだが、原判決は刑事補償法とは家族の情愛等の「本質的な違いがある」として、同法における一日当たりの補償金1,000円以上、12,500円以下の範囲における落としどころを4,000円としている。う~ん、どんぶり勘定の印象は否めないですね~。
<冤罪の補償金は、1日当たり1000円以上12500円以下。監禁された後藤徹氏の損害額は1日当たり4000円が果たして妥当なのか。>
そこで,当裁判所は,前記認定の事情に加えて,控訴人の逸失利益を具体的に算定することが困難であること,一方において,<母>及び被控訴人<兄>らは,控訴人の国民年金保険料等を立て替えて支払うなどして控訴人の社会保障につき一定の配慮はしていたこと(乙イ42ないし44)など,本件に現れた一切の事情を総合考慮して,控訴人の慰謝料としては,上記イの治療費相当の損害額をも合わせて2000万円と認めるのが相当と思料する。
【解説】:「一切の事情を総合考慮して」切りのいい2,000万円と「思料」したというのだが、このような複雑な案件に対して、限られた時間内で具体的金額を算定しなければならない裁判所の苦労が覗える。
エ 弁護士費用
本件訴訟の経過や事案の内容に照らし,被控訴人<兄>らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,200万円と認めるのが相当であり,そうすると、損害額の合計は,2200万円となる。
【解説】損害額の合計は2,200万円だが、遅延金を含めると3000万弱となる。こちらの解説参照
→ http://antihogosettoku.blog111.fc2.com/blog-entry-294.html#more
(2)被控訴人松永及び被控訴人宮村の不法行為について
前記5で述べた事情やその他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,被控訴人松永については前記2200万円の5分の1に当たる440万円,被控訴人宮村については前記2200万円の2分の1に当たる1100万円について,それぞれ被控訴人<兄>らと連帯して賠償義務を負うものと認めるのが相当である。
【解説】:「前記5」とは、「5 被控訴人松永及び被控訴人宮村の控訴人に対する不法行為の成否について」のこと。松永が5分の1の責任、宮村が2分の1の責任と認定された。松永と宮村が受けた不法行為責任を比べてみると、松永に比べ宮村の方が2.5倍罪状が重いことになる。
8 結論
よって,控訴人の本件控訴に基づき上記と異なる原判決を変更し,被控訴人<兄>ら及び被控訴人宮村の本件各控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官 須 藤 典 明
裁判官 小 濱 浩 庸
裁判官 島 村 典 男
*以上で、控訴審判決文の全文の掲載を終了しました。
今後は、上告に関する情報が入り次第、記事をUPする予定です。
未だ拉致監禁事件は続いていて、現在監禁中の統一教会員もいます。
この判決を契機に拉致監禁による脱会説得がなくなるよう、1人でも多くの人にこのブログが目に止まるようポチっとクリックお願いします。
↓↓↓↓↓↓にほんブログ村
2015-02-08(Sun)
最高裁が上告を棄却!勝訴判決確定!!後藤裁判ついに終結!!! « ホーム
» 後藤裁判 控訴審 判決文(その5)-松永牧師及び宮村は、監禁行為を「教唆」ないし「幇助」し、「共同不法行為責任」を負う!!
トラックバック
ごくろうさまでした。
判決文のアップ、そして読みごたえのある解説ありがとうございました。
惜しむらくは、後藤さん側がアメリカでの同種の裁判の判決で、損害賠償金についてどのように認定していたのか、それを書面として提出していなかったことです。
これについてはyoshiさんの解説を読みたいですね。
惜しむらくは、後藤さん側がアメリカでの同種の裁判の判決で、損害賠償金についてどのように認定していたのか、それを書面として提出していなかったことです。
これについてはyoshiさんの解説を読みたいですね。
お金よりも…
<冤罪の補償金は、1日当たり1000円以上12500円以下。監禁された後藤徹氏の損害額は1日当たり4000円が果たして妥当なのか>
妥当ではないでしょ。少なすぎます。
後は徹さん自身が納得するかどうかですね。
12年5ヶ月の監禁が認められたわけだから、大きな勝利を勝ち取ったわけです。
より多くの損害賠償金を認めさせたとしても、それは徹さんの家族が払う(払わせられる)可能性が高く、宮村や松永は負わないでしょう。
この判決を受けて、日本社会がどう変わるか。
むしろ、そっちに関心を持っているのではないでしょうか。
報道されるとか、国際社会に認知されるとか…。
ただ…。
拉致監禁問題が大きく進展したのに、当の統一教会が崩壊寸前にあるという現実は、一体、どう考えればいいのか…。
徹さんも複雑な心境でしょう。
妥当ではないでしょ。少なすぎます。
後は徹さん自身が納得するかどうかですね。
12年5ヶ月の監禁が認められたわけだから、大きな勝利を勝ち取ったわけです。
より多くの損害賠償金を認めさせたとしても、それは徹さんの家族が払う(払わせられる)可能性が高く、宮村や松永は負わないでしょう。
この判決を受けて、日本社会がどう変わるか。
むしろ、そっちに関心を持っているのではないでしょうか。
報道されるとか、国際社会に認知されるとか…。
ただ…。
拉致監禁問題が大きく進展したのに、当の統一教会が崩壊寸前にあるという現実は、一体、どう考えればいいのか…。
徹さんも複雑な心境でしょう。
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
コメントの投稿