後藤裁判 控訴審 判決文(その2)-車中で使用させたポータブルトイレは「自由の違法な制約」
後藤徹氏の勝訴判決となった控訴審判決の判決文の第2回目を掲載する。
今回UPしたのは、以下の青字部分です。

<荻窪駅前で支援者と共に拉致監禁被害を訴える後藤氏 2008年8月ころ>
以下、判決分を掲載する。
(注意:解説部分は青字で表記した。また、後藤氏の兄は<兄>、妹は<妹>、兄嫁は<兄嫁>と表記する)
今回UPしたのは、以下の青字部分です。
<目次>
主 文
事 実 及び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
2 被控訴人<兄>ら
3 被控訴人宮村
4 被控訴人松永及び被控訴人法人
第2 事案の概要
第3 当裁判所の判断
1 <賠償額の提示>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
2 <原判決の補正>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
3 <認定範囲の検討>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
4 被控訴人<兄>らの控訴人に対する不法行為の成否について
(1)平成7年9月11日のパレスマンション多門に向かった移動について
(2)平成7年9月11日から平成9年6月22日までのパレスマンション多門における滞在について
(3)平成9年6月22日の荻窪プレイスに向かった移動について
(4)平成9年6月22日から同年12月頃までの荻窪プレイスにおける滞在について
(5)平成9年12月頃の荻窪フラワーホームに向かった移動について
(6)平成9年12月頃から平成20年2月10日までの荻窪フラワーホームにおける滞在について
(7)<被控訴人<兄>らの控訴人に対する不法行為の成否についての結論的解説>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
(8)<消滅時効の抗弁について>(注意:世話人が便宜的に付けたもの)
5 被控訴人松永及び被控訴人宮村の控訴人に対する不法行為の成否について
6 被控訴人法人の控訴人に対する不法行為の成否について
7 損害額について
(1)被控訴人<兄>らの不法行為について
ア 逸失利益
イ 治療費
ウ 慰謝料
エ 弁護士費用
(2)被控訴人松永及び被控訴人宮村の不法行為について
8 結論

<荻窪駅前で支援者と共に拉致監禁被害を訴える後藤氏 2008年8月ころ>
以下、判決分を掲載する。
(注意:解説部分は青字で表記した。また、後藤氏の兄は<兄>、妹は<妹>、兄嫁は<兄嫁>と表記する)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の被控訴人<兄>らに対する請求は,2200万円及びこれに対する遅延損害金の限度で,被控訴人宮村に対する請求は,1100万円及びこれに対する遅延損害金の限度で,被控訴人松永に対する請求は,440万円及びこれに対する遅延損害金の限度で,それぞれ理由があり,被控訴人法人に対する請求には理由がないものと判断するが,その理由は,次項以下で述べるとおりである。
2 証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる事実は,原判決を次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
【解説】:原判決とは一審の判決のこと。「原判決の『事実及び理由』第3の1」とは、こちら
→ 文字色rget="_blank" title="http://antihogosettoku.blog111.fc2.com/blog-entry-249.html#more">http://antihogosettoku.blog111.fc2.com/blog-entry-249.html#more
すなわち、「原判決の『事実及び理由』第3の1」とは、一審判決において採用された証拠に基づく事実認定のことである。
(原判決の補正)
(1)原判決27頁14行目の「153,」の次に「176,192,」を,同頁15行目の「乙イ41,」の次に「乙イ54,」を,それぞれ加える。
【解説】:控訴審判決では、原判決で採用された証拠に加え、新たに3つの証拠(甲176、甲192、乙イ54)が採用された。「甲176」は、後藤徹氏が監禁解放後に入院した一心病院の体温表で、入院期間中の50日間で体重が約50キロから65キロまで増加していることを示すものである。
「甲192」は、同じく一心病院の「約束食事箋」で、一心病院で入院患者に出る病院食のカロリー等を記したものである。この2つの証拠から、荻窪フラワーホームで後藤兄らが1日2000カロリーもの食事を後藤徹氏に出していたという嘘が暴露された。
乙イ54は、後藤兄嫁が提出した証拠で、後藤徹氏が監禁されていた新潟パレスマンション多門607号室の間取り図と内部の写真である。


<甲176の体温表の一部
50日間で、約15キロも体重が増加していることが見て取れる>

<甲192の一心病院栄養科の約束食事箋
入院患者の一般常食は1700カロリーであることが分かる>
(2)原判決31頁23行目の[①]を「<1>」と,同行目の「②」を「<2>」と,同頁24行目の「③」を「<3>」と,同頁25行目の「④」を「<4>」と,同行目の「⑤」を「<5>」と,同頁26行目の「⑥」を「<6>」と,それぞれ改める。
(3)原判決32頁2行目全文を「(i) 上記〈1〉の部分」と,同頁7行目全文を「(ii) 上記<2>の部分)と,同頁13行目全文を「(iii) 上記<3>の部分」と,同頁15行目全文を「(iv) 上記<4>の部分」と,同頁24行目全文を「(v) 上記<5>の部分」と,同33頁13行目全文を「(vi) 上記<6>の部分」と,それぞれ改める。
(4)原判決33頁24行目の「前記i」を「上記i」と改める。
(5)原判決44頁21行目の「仕方などを指導をしていた。」を「仕方などを指導していた。」と改める。
(6)原判決45頁1行目の「被告ら」を「被控訴人<兄>ら」と改める。
(7)原判決46頁15行目の「約63キログラム」を「約50キログラム」と改める。
(8)原判決48頁22行目の「<兄>らが及び」を「<兄>ら及び」と改める。
3 これに対し,控訴人はもとより,被控訴人<兄>ら及び被控訴人宮村も,原判決における当事者その他の人物の動静や言動,パレスマンション多門,荻窪プレイス及び荻窪フラワーホームでの様子等に関する前記2(補正後の原判決引用部分)の認定事実(以下「前記認定事実」という。)は誤りであると主張し,当審において追加の書証を提出するなどしている。
しかしながら,本件の中心な争点は,平成7年9月11日から平成20年2月10日までの約12年5か月間,実家からパレスマンション多門へ,パレスマンション多門から荻窪プレイスへ,荻窪プレイスから荻窪フラワーホームヘ,それぞれ移動した機会のほかは,これらの場所から全く外出することもなく,電話その他の通信手段を用いて外部と連絡することもなかった控訴人について,刑法上の監禁と評価されるべきか否かはともかく,控訴人が主張しているように,控訴人の意思に基づかずに強制的に行動の自由が制約されたものであったのか,それとも,被控訴人らが主張しているように,控訴人の任意の意思に基づく滞在であったのかであって,被控訴人らから違法性阻却事由<解説1>,例えば,控訴人の意思に反して上の部屋等に控訴人を滞在させたものの,それは控訴人において犯罪行為などの違法行為に及ぶ明白かつ現在の危険があり,これを避けるために必要なものであったなどとの主張がなされているわけではない。
【解説1】:「違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)」とは、法律上違法とされる行為について、その違法性を否定する事由をいう(例えば正当防衛など)。
しかも,控訴人も被控訴人<兄>らも,本件で対象となる平成7年9月11日からの控訴人自身の脱会説得等の前から,統一教会の信者の脱会活動をめぐる攻防の渦中にあり,被控訴人<兄>自身,父親である亡<父>らの脱会説得によって統一教会の信者から脱した経緯があり,控訴人も,本件以前にも脱会説得等を受けた経験があって,双方が脱会の説得をめぐって様々な方策や対策があることを熟知しつつ,駆け引きを交えながら継続的なやり取りが行われていたものであり,個々の事実だけを取り上げてその真意や当否を論じることは相当ではないが,既に過去の経緯等についても必要な範囲で当事者双方から主張立証がなされており,改めて主張立証の範囲を拡大しなければならないものではない。いずれにしても,以下では,そのような観点をも踏まえつつ,監禁か否かをめぐる双方の主張について検討する。
もっとも,被控訴人宮村は,上記の不法行為責任の有無を判断するに当たっては,より詳細に統一教会の活動の実態等に関する事実を認定することが不可欠であると主張しているが<解説2>,日本国憲法20条1項は,信教の自由は,何人に対してもこれを保障すると定めているから,ある宗教の教義がどのようなものであったとしても,それが直接対外的に他の人々や他の団体等の権利や自由を侵害したり,危害等を加えたりするものでない限り,他から干渉されない自由が保障されているものである。裁判所は,ある団体の活動が他の人々や他の団体等の権利を違法に侵害したり,危害等を加えたりする場合には,そのような違法行為等を規制する法令等の定めるところに従い,外形的な行為について,一定の法律判断を行うことがあるとしても,その宗教団体の教義の内実自体の当否を判断するようなことは,もともと日本国憲法が予定するところではない。
したがって,統一教会の諸活動が我が国の他の法令等に違反し,許容されないものである場合には,その行為の当否等について,別途,民事,刑事の裁判手続で個別的に判断されるべきものであって,その信仰の自由の問題とは分けて考えられるべきものであるところ,本件では,統一教会から脱会するよう説得することや,そのために信者である控訴人を一定の施設に滞在させたことなどが違法か否かが問題とされているものであって,統一教会の違法な活動等によって何か損害を被ったとする被害者において,統一教会の活動の当否について責任を追及しているものではないから,統一教会の活動等の実態に関する事実は,上記脱会問題の当否を検討するに必要な限度で認定すれば足りるというべきである。しかも,控訴人宮村も,被控訴人<兄>らの行為が控訴人の意思に基づかない身体の拘束であり,監禁であることを前提として,具体的に違法性阻却事由が存在しているなどと主張しているものではないから,前記認定事実に加えて,更に統一教会の活動等の実態に関する事実というものを付加する必要は認められないというべきである。
【解説2】:控訴審において、宮村は本件拉致監禁事件とは関係ない統一教会の活動の問題点なる書面(統一教会関連のこれまでの裁判の判例や統一教会の教義と経済活動の関連等)を証拠として膨大に提出していた。宮村は、これらの証拠でもって、宮村や後藤家族らが、なぜ後藤徹氏との「話し合い」を12年もの長期に亘り追及したのかを弁明しようとしていた。しかし、以上の判決文の通り、その弁明は全く認められなかった。

<宮村が控訴審で提出した「統一教会の活動の問題」を主張した準備書面の目次の一部>
4 被控訴人<兄>らの控訴人に対する不法行為の成否について
(1)平成7年9月11日のパレスマンション多門に向かった移動について
ア 前記認定事実によれば,控訴人が亡<父>宅から被控訴人<兄>らが用意したワゴン車に乗るまでの短時間に,被控訴人<兄>らが控訴人を拉致し又は逮捕したといえるか否かはともかく,控訴人は,被控訴人<兄>らから,亡<父>宅から場所を移動して話合いをすることを告げられたものの,具体的な行き先は伝えられておらず,家族以外の者が待機する中,セダンなどよりも乗車人数の多いワゴン車に乗るよう指示され,これに乗り込んだところ,他者に挟まれる形で後部座席中央に座わらされ,新潟までの走行中,休憩などのため途中下車することもなく,排尿又は排便の際も複数名が乗車するワゴン車内のポータブルトイレを使用するよう求められ,そうせざるを得なかったというのであるから,少なくとも新潟に向かう途中において,控訴人は,ワゴン車から降りることが不可能又は著しく困難な状態に置かれ,行動の自由を制約されていたものとみるのが相当である。
仮に新潟に向かう途中に,給油のために一時停車することがあったり,控訴人において,かつて被控訴人<兄>自身が脱会説得のためにワゴン車に乗せられた時のような強い抵抗を示さなかったものとしても,それは,それまでの脱会活動をめぐる説得者側と統一教会信者側との攻防によって培われた駆け引きの一環と考えるのが相当であって,控訴人がワゴン車に乗せられる時に強い抵抗を示さなかったこと自体,むしろ控訴人において逃亡の機会をうかがっていたものと考える方が自然であるから,控訴人が強い抵抗を示さなかったことをもって,控訴人が自由かつ任意の意思で,被控訴人<兄>らの説得に応じようとしていたものとみることはできない。
イ しかも,上記のとおり,被控訴人<兄>らにおいて,ワゴン車内にボータブルトイレを用意していたのは,それまでの脱会説得活動等において,説得を受けている統一教会の信者がトイレに行きたいなどと言って逃走した例があることを踏まえ,説得のためには,そのような説得対象者の自由な行動を一定限度で制約することが必要であるとの考えに基づき,トイレを理由に下車させないためにあらかじめポータブルトイレを用意していたものと推認されるところ,本件では,控訴人がワゴン車に乗り込み,同車が新潟に向けて走行を開始し,その途中で控訴人が尿意を催してトイレ休憩を求めたのに,被控訴人<兄>らは,これに応じようとせず,車内に用意したポータブルトイレを使用するよう求めるなどしたものであり,この時点において,当初の計画どおり,控訴人の自由な行動を制約することが外形的にも明らかになったものと認められるから,被控訴人<兄>らによる控訴人に対する行動の自由の違法な制約が開始されたものと認めるのが相当である。
【解説】:一審判決では、西東京市の実家からの拉致監禁は認められなかったが、控訴審判決では、以上見たとおり新潟への移動の車内にポータブルトイレを準備して使用させたこと等から、この時点で既に違法性を認定している。極めて妥当な認定と言える。
*次回は、滞在した3つのマンションの内の最初「新潟パレスマンション多門」と2番目の「荻窪プレイス」の事実認定と不法行為の成否です。
最後まで後藤徹氏の応援をよろしくお願いいたします。
↓↓↓↓↓↓
にほんブログ村
1 当裁判所は,控訴人の被控訴人<兄>らに対する請求は,2200万円及びこれに対する遅延損害金の限度で,被控訴人宮村に対する請求は,1100万円及びこれに対する遅延損害金の限度で,被控訴人松永に対する請求は,440万円及びこれに対する遅延損害金の限度で,それぞれ理由があり,被控訴人法人に対する請求には理由がないものと判断するが,その理由は,次項以下で述べるとおりである。
2 証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる事実は,原判決を次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
【解説】:原判決とは一審の判決のこと。「原判決の『事実及び理由』第3の1」とは、こちら
→ 文字色rget="_blank" title="http://antihogosettoku.blog111.fc2.com/blog-entry-249.html#more">http://antihogosettoku.blog111.fc2.com/blog-entry-249.html#more
すなわち、「原判決の『事実及び理由』第3の1」とは、一審判決において採用された証拠に基づく事実認定のことである。
(原判決の補正)
(1)原判決27頁14行目の「153,」の次に「176,192,」を,同頁15行目の「乙イ41,」の次に「乙イ54,」を,それぞれ加える。
【解説】:控訴審判決では、原判決で採用された証拠に加え、新たに3つの証拠(甲176、甲192、乙イ54)が採用された。「甲176」は、後藤徹氏が監禁解放後に入院した一心病院の体温表で、入院期間中の50日間で体重が約50キロから65キロまで増加していることを示すものである。
「甲192」は、同じく一心病院の「約束食事箋」で、一心病院で入院患者に出る病院食のカロリー等を記したものである。この2つの証拠から、荻窪フラワーホームで後藤兄らが1日2000カロリーもの食事を後藤徹氏に出していたという嘘が暴露された。
乙イ54は、後藤兄嫁が提出した証拠で、後藤徹氏が監禁されていた新潟パレスマンション多門607号室の間取り図と内部の写真である。


<甲176の体温表の一部
50日間で、約15キロも体重が増加していることが見て取れる>

<甲192の一心病院栄養科の約束食事箋
入院患者の一般常食は1700カロリーであることが分かる>
(2)原判決31頁23行目の[①]を「<1>」と,同行目の「②」を「<2>」と,同頁24行目の「③」を「<3>」と,同頁25行目の「④」を「<4>」と,同行目の「⑤」を「<5>」と,同頁26行目の「⑥」を「<6>」と,それぞれ改める。
(3)原判決32頁2行目全文を「(i) 上記〈1〉の部分」と,同頁7行目全文を「(ii) 上記<2>の部分)と,同頁13行目全文を「(iii) 上記<3>の部分」と,同頁15行目全文を「(iv) 上記<4>の部分」と,同頁24行目全文を「(v) 上記<5>の部分」と,同33頁13行目全文を「(vi) 上記<6>の部分」と,それぞれ改める。
(4)原判決33頁24行目の「前記i」を「上記i」と改める。
(5)原判決44頁21行目の「仕方などを指導をしていた。」を「仕方などを指導していた。」と改める。
(6)原判決45頁1行目の「被告ら」を「被控訴人<兄>ら」と改める。
(7)原判決46頁15行目の「約63キログラム」を「約50キログラム」と改める。
(8)原判決48頁22行目の「<兄>らが及び」を「<兄>ら及び」と改める。
3 これに対し,控訴人はもとより,被控訴人<兄>ら及び被控訴人宮村も,原判決における当事者その他の人物の動静や言動,パレスマンション多門,荻窪プレイス及び荻窪フラワーホームでの様子等に関する前記2(補正後の原判決引用部分)の認定事実(以下「前記認定事実」という。)は誤りであると主張し,当審において追加の書証を提出するなどしている。
しかしながら,本件の中心な争点は,平成7年9月11日から平成20年2月10日までの約12年5か月間,実家からパレスマンション多門へ,パレスマンション多門から荻窪プレイスへ,荻窪プレイスから荻窪フラワーホームヘ,それぞれ移動した機会のほかは,これらの場所から全く外出することもなく,電話その他の通信手段を用いて外部と連絡することもなかった控訴人について,刑法上の監禁と評価されるべきか否かはともかく,控訴人が主張しているように,控訴人の意思に基づかずに強制的に行動の自由が制約されたものであったのか,それとも,被控訴人らが主張しているように,控訴人の任意の意思に基づく滞在であったのかであって,被控訴人らから違法性阻却事由<解説1>,例えば,控訴人の意思に反して上の部屋等に控訴人を滞在させたものの,それは控訴人において犯罪行為などの違法行為に及ぶ明白かつ現在の危険があり,これを避けるために必要なものであったなどとの主張がなされているわけではない。
【解説1】:「違法性阻却事由(いほうせいそきゃくじゆう)」とは、法律上違法とされる行為について、その違法性を否定する事由をいう(例えば正当防衛など)。
しかも,控訴人も被控訴人<兄>らも,本件で対象となる平成7年9月11日からの控訴人自身の脱会説得等の前から,統一教会の信者の脱会活動をめぐる攻防の渦中にあり,被控訴人<兄>自身,父親である亡<父>らの脱会説得によって統一教会の信者から脱した経緯があり,控訴人も,本件以前にも脱会説得等を受けた経験があって,双方が脱会の説得をめぐって様々な方策や対策があることを熟知しつつ,駆け引きを交えながら継続的なやり取りが行われていたものであり,個々の事実だけを取り上げてその真意や当否を論じることは相当ではないが,既に過去の経緯等についても必要な範囲で当事者双方から主張立証がなされており,改めて主張立証の範囲を拡大しなければならないものではない。いずれにしても,以下では,そのような観点をも踏まえつつ,監禁か否かをめぐる双方の主張について検討する。
もっとも,被控訴人宮村は,上記の不法行為責任の有無を判断するに当たっては,より詳細に統一教会の活動の実態等に関する事実を認定することが不可欠であると主張しているが<解説2>,日本国憲法20条1項は,信教の自由は,何人に対してもこれを保障すると定めているから,ある宗教の教義がどのようなものであったとしても,それが直接対外的に他の人々や他の団体等の権利や自由を侵害したり,危害等を加えたりするものでない限り,他から干渉されない自由が保障されているものである。裁判所は,ある団体の活動が他の人々や他の団体等の権利を違法に侵害したり,危害等を加えたりする場合には,そのような違法行為等を規制する法令等の定めるところに従い,外形的な行為について,一定の法律判断を行うことがあるとしても,その宗教団体の教義の内実自体の当否を判断するようなことは,もともと日本国憲法が予定するところではない。
したがって,統一教会の諸活動が我が国の他の法令等に違反し,許容されないものである場合には,その行為の当否等について,別途,民事,刑事の裁判手続で個別的に判断されるべきものであって,その信仰の自由の問題とは分けて考えられるべきものであるところ,本件では,統一教会から脱会するよう説得することや,そのために信者である控訴人を一定の施設に滞在させたことなどが違法か否かが問題とされているものであって,統一教会の違法な活動等によって何か損害を被ったとする被害者において,統一教会の活動の当否について責任を追及しているものではないから,統一教会の活動等の実態に関する事実は,上記脱会問題の当否を検討するに必要な限度で認定すれば足りるというべきである。しかも,控訴人宮村も,被控訴人<兄>らの行為が控訴人の意思に基づかない身体の拘束であり,監禁であることを前提として,具体的に違法性阻却事由が存在しているなどと主張しているものではないから,前記認定事実に加えて,更に統一教会の活動等の実態に関する事実というものを付加する必要は認められないというべきである。
【解説2】:控訴審において、宮村は本件拉致監禁事件とは関係ない統一教会の活動の問題点なる書面(統一教会関連のこれまでの裁判の判例や統一教会の教義と経済活動の関連等)を証拠として膨大に提出していた。宮村は、これらの証拠でもって、宮村や後藤家族らが、なぜ後藤徹氏との「話し合い」を12年もの長期に亘り追及したのかを弁明しようとしていた。しかし、以上の判決文の通り、その弁明は全く認められなかった。

<宮村が控訴審で提出した「統一教会の活動の問題」を主張した準備書面の目次の一部>
4 被控訴人<兄>らの控訴人に対する不法行為の成否について
(1)平成7年9月11日のパレスマンション多門に向かった移動について
ア 前記認定事実によれば,控訴人が亡<父>宅から被控訴人<兄>らが用意したワゴン車に乗るまでの短時間に,被控訴人<兄>らが控訴人を拉致し又は逮捕したといえるか否かはともかく,控訴人は,被控訴人<兄>らから,亡<父>宅から場所を移動して話合いをすることを告げられたものの,具体的な行き先は伝えられておらず,家族以外の者が待機する中,セダンなどよりも乗車人数の多いワゴン車に乗るよう指示され,これに乗り込んだところ,他者に挟まれる形で後部座席中央に座わらされ,新潟までの走行中,休憩などのため途中下車することもなく,排尿又は排便の際も複数名が乗車するワゴン車内のポータブルトイレを使用するよう求められ,そうせざるを得なかったというのであるから,少なくとも新潟に向かう途中において,控訴人は,ワゴン車から降りることが不可能又は著しく困難な状態に置かれ,行動の自由を制約されていたものとみるのが相当である。
仮に新潟に向かう途中に,給油のために一時停車することがあったり,控訴人において,かつて被控訴人<兄>自身が脱会説得のためにワゴン車に乗せられた時のような強い抵抗を示さなかったものとしても,それは,それまでの脱会活動をめぐる説得者側と統一教会信者側との攻防によって培われた駆け引きの一環と考えるのが相当であって,控訴人がワゴン車に乗せられる時に強い抵抗を示さなかったこと自体,むしろ控訴人において逃亡の機会をうかがっていたものと考える方が自然であるから,控訴人が強い抵抗を示さなかったことをもって,控訴人が自由かつ任意の意思で,被控訴人<兄>らの説得に応じようとしていたものとみることはできない。
イ しかも,上記のとおり,被控訴人<兄>らにおいて,ワゴン車内にボータブルトイレを用意していたのは,それまでの脱会説得活動等において,説得を受けている統一教会の信者がトイレに行きたいなどと言って逃走した例があることを踏まえ,説得のためには,そのような説得対象者の自由な行動を一定限度で制約することが必要であるとの考えに基づき,トイレを理由に下車させないためにあらかじめポータブルトイレを用意していたものと推認されるところ,本件では,控訴人がワゴン車に乗り込み,同車が新潟に向けて走行を開始し,その途中で控訴人が尿意を催してトイレ休憩を求めたのに,被控訴人<兄>らは,これに応じようとせず,車内に用意したポータブルトイレを使用するよう求めるなどしたものであり,この時点において,当初の計画どおり,控訴人の自由な行動を制約することが外形的にも明らかになったものと認められるから,被控訴人<兄>らによる控訴人に対する行動の自由の違法な制約が開始されたものと認めるのが相当である。
【解説】:一審判決では、西東京市の実家からの拉致監禁は認められなかったが、控訴審判決では、以上見たとおり新潟への移動の車内にポータブルトイレを準備して使用させたこと等から、この時点で既に違法性を認定している。極めて妥当な認定と言える。
*次回は、滞在した3つのマンションの内の最初「新潟パレスマンション多門」と2番目の「荻窪プレイス」の事実認定と不法行為の成否です。
最後まで後藤徹氏の応援をよろしくお願いいたします。
↓↓↓↓↓↓

2014-12-03(Wed)
トラックバック
後藤控訴審判決の歴史的意義
「支援する会」 の皆様、判決文の掲載作業ありがとうございます。
控訴審判決文の掲載に合わせて、私のブログで、「後藤控訴審判決の歴史的意義」 の連載を開始いたしました。控訴審判決文と合わせて、是非ご一読下さい。
(その一) 後藤控訴審判決の歴史的意義:アメリカの例
http://humanrightslink.seesaa.net/article/409676523.html
控訴審判決文の掲載に合わせて、私のブログで、「後藤控訴審判決の歴史的意義」 の連載を開始いたしました。控訴審判決文と合わせて、是非ご一読下さい。
(その一) 後藤控訴審判決の歴史的意義:アメリカの例
http://humanrightslink.seesaa.net/article/409676523.html
コメントの投稿